フランス語借用の推移 (p. 23)

序章の中の「ノルマン征服とフランス語の影響」 (pp. 21ff.) というセクションに、「フランス語借用の推移」(p. 23) という折れ線グラフを載せてあるが、これは Baugh による調査に基づくものである (これは以下のグラフでは緑色の線で示してある)。似たような調査は、Jespersen, Koszul および Mossé によっても、それぞれ異なる方法で行われている。以下のグラフは、これら4人の調査結果を示す折れ線グラフを重ねたもの。

Jespersen と Baugh は任意の1000語、Koszul は988語、MosséOED でA から始まりフランス語から借用された1804語のうち1703語をもとにした数値であるため、特に Mossé の数値は他の3人よりも大きくなりがちである。しかし、1066年のノルマン征服後あまり時間が経たない時期には借用が非常に少なく、1200年前後から急激に伸び始め、1400年頃にピークに達し、その後は著しく減るが、ルネサンス期に再び伸び、ルネサンス期の終わり(1650年頃)からは再び落ち込むものの、19世紀中頃にもう一度少しだけ増える、という大まかな傾向はいずれもほぼ一致していると言える。 

 

一方、以下のグラフは、OED Online (2012年10月17日現在) を用いてフランス語借用の推移をグラフにしたもの (ただし、語源欄の記述に基づき、機械的に抽出されたデータに基づくもので、一語一語についてフランス語借用語かどうか確かめたわけではないので、サンプルとして不適切な語も一定数含まれているものと思われる)。約23,000語をもとにした数値であるが、大まかな傾向としては上記4人の調査結果と似通っている。

ただ、少し細かく見ると、14世紀末頃までにピークを迎えた後の落ち込み方は、上記4人の調査の場合よりも緩やかである。また特に、18世紀から19世紀における伸び具合については、上記の調査では僅かな伸びに留まっているのに対し、OEDに基づく数値では、ルネサンス期のピーク時を超える程にまで達している。

 

18世紀から19世紀にかけてのフランス語借用語がいかなる性質のものであるかについては、詳しく調査しなければならないが、その一部はナポレオン戦争などと関連して入った軍事用語であると考えられる。

この時期はまた、ナポレオン戦争に勝利したイギリスがその海軍力で世界中の貿易で中心的な地位を得た時代でもあり、様々な国との交易を通じて、いろいろな言語からの借用語が著しく増えた時期でもあった。さらには、科学技術等の急速な発展により、専門的な分野で新たな語彙が必要となった時代でもあった(これについては、こちらのページも参照)。

このようなことが重なり、18世紀から19世紀にかけて、他の外国語からの語彙借用と同様、フランス語からの語彙借用も大幅に伸びたものと考えられる。

なお、上記のフランス語借用語数の推移に関する4人の研究者の調査結果は、以下の文献にまとめられている。

Otto Jespersen, Growth and Structure of the English Language, 6th ed. revised (Leipzig: B.G. Teubner, 1930), p. 87.

A.C. Baugh, 'The Chronology of French Loan-Words in English,' Modern Language Notes 50 (1935), 90-93.

André Koszul, 'Statistique et Lecture. Note sur la courbe des emprunts de l’anglais au français,' Bulletin de la Faculte des Lettres de Strasbourg 15 (1936), 79-82.

Fernand Mossé, 'On the Chronology of French Loan-Words in English,' English Studies 25 (1943), 33-40.

Baughの調査結果については、以下にも再録されている。

A.C. Baugh, and T. Cable, A History of the English Language, 6th ed. (Boston: Pearson, 2013), p. 173.