Maxims II 『格言詩2』

Maxims II は、格言を集めた詩で、古英詩を多く含む写本、エクセター・ブックにも似たような格言詩(Maxims I)が記録されている。Maxims IIAnglo-Saxon Chronicle の C 写本(London, British Library, Cotton Tiberius B.i)に含まれ、The Menologium と並んで、年代記に対するイントロダクション的な役割を担っていると考えられている。Anglo-Saxon Chronicle は法律と共に写本に収められていることがあるが、この詩に収められた格言も「〜すべきものなり」など、決まり事を示したような言葉遣いが目立つ。いずれにしろ、Maxims I とも合わせ、当時の(あるいは伝統的な)価値観や世界観の一面が垣間見られる興味深い作品である。

以下の邦訳は、E. V. K. Dobbie (ed.), The Anglo-Saxon Minor Poems, Anglo-Saxon Poetic Records 6 (New York: Columbia University Press, 1942), pp. 55-57 のテクストに基づく。

 

『格言詩2』

      

   王は王国を支配すべき者なり。(石造りの)陣営は、巨人の技にて作られし建物にして

   この地に見らるる壁石にて巧妙に作られしものは、

   遠方より眺めらるるもの。[1] 風は空中にありて最も速く、

   雷は時に最も大きなる音をたてる。キリストの勲は偉大なり、

5  運命は最強なり。冬は最も寒く、  

   春には最も霜が降り、(寒さが最も長引き)、

   夏は太陽が最も美しく(太陽が最も熱く)、

   秋は最も栄光に満ち、人々に

   神の送りしその年の実りをもたらす。

10 真実は最も明らかなり、宝は、

   金は、人々のいずれにも最も有難く、また老人は、

   多くの年重ね、多くを経験せし者は最も賢し。

   蜜蝋は驚く程に粘着質なり。雲は滑らかに進む。

   良き家臣たちは、若き貴人を鼓舞すべきなり、

15 戦争においても、宝の分配においても。[2]            

   戦においては、勇気は武人の中に、

   刃は兜に対してあるべし。荒々しき鷹は

   (鷹狩の)手袋の上に、哀れで孤独なる

   狼は森に、牙強き

20 猪は林に居るべきものなり。良き者は家郷にありて

   栄光を求め行動するものなり。投げ槍、金で飾られし槍は

   手元にあるべきものなり。宝石は指輪の上にありて

   光り輝き気高くあるべきものなり。海流は波間にありて

   海水を掻き立てるべきものなり。帆柱は船上にありて

25 帆桁を留め置くべきものなり。高貴なる鉄製の武器たる剣は

   所有さるべきものなり。古より生くるドラゴンは、宝を誇りつつ

   塚の中にあるべきものなり。[3] 魚は水中にありて

   子を生むものなり。王は広間にありて

   宝を分け与えるべき者なり。年重ね恐ろしき熊は

30 荒野にあるべきものなり。灰色の流れたる川は丘より

   流るるべきものなり。軍勢は、栄光ある者たちの一軍は、

   共にまとまってあるべきものなり。忠誠心は貴人の中に、

   叡智は人の中にあるべきものなり。森は地上にありて、

   豊かに生い茂るべきものなり。丘は大地の上にありて

35 青々とあるべきものなり。神は、(人々の)行いの審判者にして

   天にあるべき者なり。扉は館にありて

   広間に付属したる大いなる口たるべきものなり。盾の(中央の)突起は

   堅固に指を護るべきものなり。鳥は

   空中を飛ぶべきものなり。鮭は水中にありて

40 鱒と共に泳ぐべきものなり。雨は天空において

   風に塗れつつこの地上に(降り)来るべきものなり。

   盗人は陰鬱なる天気の中を移動すべきものなり。巨人(怪物?)は湿地において

   孤独に生活すべきものなり。[4] 女子は秘密裡に

   自らの夫を求むべきなり、人々の間に時めきて、男が宝にて

45 (その女子を)購わんとするを敢えて欲さざれば。[5] 海は塩にて湧き、

   雲と海流、それに山間の水流は、あらゆる土地の何処においても

   流れ動くべきものなり。畜牛は大地の上にて

   生まれ育つべきものなり。星は天にありて、

   創造主がお命じになったように、眩く輝くべきものなり。[6]

50 善は悪と相対し、若さは老いと相対し、

   生は死と相対し、光は闇と相対し、

   軍勢は軍勢と相対し、敵は敵と相対し、

   土地を巡っての敵意は同様の敵意と相対し、

   敵愾心を燃やすものなり。賢者は常にこの世の苦難につきて

55 考えるべきなり。無法者は絞首刑に処せらるるべきなり、

   (そうすることで)嘗て人類に対して行いし悪行に対する代価を

   正当に支払うべきなり。魂が今後何処に行くのかは、

   そして死後に神のもとを訪れ、

   父の庇護のもと                                                                         

60 審判を待つ全ての霊が(何処に行くのかは)、

   創造主のみがご存じなり。(人の)行く末は

   未知にして覚束なし。(これ)主のみが、

   救世主たる父のみがご存じのことなり。創造主のお造りになったもの、

   栄光の民の居場所にして神ご自身のいらっしゃるところが

65 如何なるところかを真に人々に伝える者が、

   この天の下に戻り来ることはなし。 

 



 

[1] 「巨人の技にて作られし建物」とはローマ支配時代に作られたローマ風の石造りの建物のこと。ブリテン島に渡ったアングロ・サクソン人たちは、ローマ時代の石造りの町(の跡)には住まず、それとは離れたところに独自の木造の建物を建てて住んだと言われており、「遠方より眺めらるるもの」とされているのも、このような状況を踏まえたものだと考えられる。

 

[2] 戦いにおける勇敢さfortitudoと家臣たちへのもの惜しみない金品の分配liberalitasは、賢さsapientiaと並び、人の上に立つ者が身に付けるべき徳とされた。宝の分配については、28-29行目も参照。

 

[3] ベーオウルフにもあるように、ドラゴンはしばしば古の人々が塚の中に残した宝を守る者として描かれる。ベーオウルフをはじめとする中世文学に大きく影響を受けたJ.R.R. Tolkien のホビットにもこのようなドラゴンが登場する。

 

[4] 『ベーオウルフ』に登場するグレンデルの住処もそうであるように、湿地や沼地などはしばしば怪物や不気味な生物の居るところと考えられた。フェリクスによるラテン語散文の『聖グースラーク伝』やこれに基づく古英詩『グースラーク』で、隠者グースラークが住むのも湿地帯で、そこに住むケルト人の霊や悪魔などがグースラークを襲う。

 

[5] アングロ・サクソン時代には、(特に女性の)結婚が金品を介した売買契約のような形で行われることがあったようである。例えば、ウェセックス王イネ(688-726年)の法律の第31条には妻の「購入」と関連することが規定されている。

 

[6] 旧約聖書創世記1:14-19 において、星は太陽や月などと共に、創造の第四日目に大地を照らし、昼と夜、光と闇を分けるべく神の命令に従って創造されたとある。ここに述べられたことはこの言葉を踏まえたものであろう