A Leaf Printed by Richard Pynson:

Sebastian Brant, Ship of Fools,

trans. Alexander Barclay (London, 1509)

1476年にWilliam Caxton (c. 1414-22-c. 1492)がイングランド初の印刷会社を始めると、これに続き他にも印刷会社を始める人が出た(Caxtonの印刷したものについてはこちらのページも参照)。Caxtonの弟子Wynkyn de Worde(d. 1534)もその一人だったが(彼についてはこちらのページも参照)、ここに紹介するShip of Fools の英訳版を印刷したRichard Pynson(1448-1529)もまたイングランド最初期の印刷業者のうちの一人である。

Pynsonはフランスのノルマンディ生まれで恐らくルーアンで印刷技術を学び1492年に最初の印刷物を発行している。15世紀末までにはイングランドに移り住み、ロンドンのTemple Bar付近に開業した。

1506年には、ヘンリー7世に仕える「王室御用達」の印刷業者となり、ヘンリー7世の死後はヘンリー8世にも同様の立場で仕えた。後にイングランドに帰化している。

Pynsonは、自らの印刷物に、15世紀に整備された公文書に使われる英語(チャンセリー英語)に準じた英語を用いた。Caxtonが印刷物に用いた英語もチャンセリー英語に影響を受けたものであったが、Pynsonはより忠実にこれを用い、チャンセリー英語(そしてその大本にあるロンドンの教養ある富裕層の言語)を基礎とする標準英語の普及・定着に一役買ったと言われている。

ここで紹介するのは、Pynsonが1509年に印刷したShip of Foolsという作品の英訳版。ship of fools「愚か者たちの船」とは、中世から近代にかけてよく文学作品や絵画等に用いられたモチーフで、船に有象無象が乗り合わせ、どこに向かっているのかも分からないでいる様を表す言葉である。

このモチーフを用いて、1494年にドイツのSebastian Brantという人物が書いたのが本書である。挿絵と共に112の風刺文を集めたもので、原典はドイツ語で書かれている。出版後まもなく、ラテン語やフランス語にも翻訳されており、1509年には本書以外にもう一つ別の英訳版も出ている。

以下は、Pynsonが印刷したShip of Foolsの英訳版からの一葉。キリスト磔刑の挿絵が入っているが、宗教的な義憤のため、キリストを槍で突いている人物の顔が何者かにより取り去られてしまっている。